百年「と」トークイベント

百年で過去に開催したトークイベントをまとめた百年「と」トークイベント。
第一回目は画家・評論家の古谷利裕さんと作家の柴崎友香さん。10月に開催された古谷さんの展示「人体/動き/キャラクター」に合わせ、芥川賞受賞作家である柴崎さんをゲストにお招きし開催されたアーティストトークです。

古谷:(スクリーンに過去の古谷さんの作品)これは、均衡状態を全体として作っていくと考えて制作していました。油絵具で描いて、だいたい162㎝×130㎝くらいの大きさの作品です。90年代は色と形を拮抗させるような感じの作品でした。色と形でいろいろ動きを作りつつ、全体を拮抗させるように作っているので、なんだかちょっと息苦しいような感じをずっと持っていました。それで色面単位から筆触単位になるのが2000年代初め辺り。今までは色の面の形がはっきりあって、形と形を重ね合わせたりして力を拮抗させる感じだったのですが、この時期になると筆触単位になります。この作品は130㎝×130㎝くらい。色面よりもっと細かい筆触同士の絡み合いと動きみたいになってくる。

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この頃同時に線の仕事をしていて、線と線の関係性が作品になっています。この頃は全体として、植物が茂っている感じのイメージで、植物でも、木というよりも草ですね。植物を描いているというより植物が茂る感じの状態を作り出すことを考えています。油絵の作品はこんな感じ。筆触からまた筆触でも面でもない中途半端な単位になって。線の作品もこんな感じ。これが2011年。

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今年の3月の尾道の展覧会はこういう感じのシリーズで、これは何かっていうと、線の仕事はこういうのがあるんですけど、こういうドローイングをまず鉛筆で描く。描いたものを1回粗く消す。消した後の線の痕跡を拾っていって、後から(線によって囲まれた)形を色でつくっている。線が消えて線と線の間の空白だったところに色が充填される。だから、これ(消す前の線画像)とこれ(消した線を拾って新しくできた形の画像)は反転しているんですよ。

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今年7月の終わりにある展覧会を見て、そこで展示されていた作品に動かされるものがあって、突然違うことをやり始めてしまったというのが今回の作品です。今まで僕がイメージしていたのは、植物で、画面全体としてある均衡状態を作るというのが目的だった。でも、今度は人体の動きについて描こうと思った。その元となったのが、小林耕平さんという人の作った作品。小林さんは何人かの人とグループでディスカッションをしながら作品を作っているのですが、たぶん神村恵という人が描いたドローイングが、そのままその作品の一部にあって、神村恵さんっていう人はダンサーなんですけど。こういう感じの。これ、初めて見たときすごく衝撃を受けたダンス作品なんです。
参考:
https://www.youtube.com/watch?v=6jlmYS5_-x8/

5、6年前の作品なんですけど、凄くないですか?実際はもっとバタンってすごい音がする。絶対痛いですね。この人が描いた本当に単純な人のポーズみたいなドローイングがあって、それに触発されて人を描こうと思ったのが今回の作品の発端です。
これはトリシャ・ブラウンっていう有名なダンサーの70年代のです。すごくミニマルな仕草が1個ずつ増えていって段々グルーヴができていく感じのダンスをやっています。
参考:
https://www.youtube.com/watch?v=86I6icDKH3M/

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=3FALHd5Viz4/

これも有名な作品なんですけど。僕はどうしても、形式的で抽象的であんまり表現的でないものが好きなので、こういうものに惹かれるんですけれど、これも例えばこういう音楽(キャロルキング「Short Mort」)をバックにしてみるとノリノリで踊っているように見える。

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=86I6icDKH3M/

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=JJJWf7RWQGo/

何が言いたいかっていうと、今回の作品でやりたいことっていうのがこういうこと。それぞれ別の空間で、別の時間で、別の人たちがダンスしているのですけど、それが一つの画面に同時にあるような状態を作れたらなと思って作ったんです。イメージとしては、この3つの画面が並列してあることによって作り出す状態みたいなものができればいいなと。

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=3FALHd5Viz4/

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=TDHy_nh2Cno/

参考:
https://www.youtube.com/watch?v=6jlmYS5_-x8/

―――柴崎さんはこれを見てどうでした?
柴崎:前に古谷さんの絵を見たのが2010年(東北沢・現代HIGHTSでの展示)で、その時は最初のほうに出てきた植物っぽいもの。そして、全面に塗ってはないけれど色の塊があるものと、線で描かれたものが少しありました。その時にこれは描くときに「上下はあるんですか?」って聞いた覚えがあるんですけど、「絶対ある。縦に立てて描いていて、上下はすごく重要」という話を伺って印象に残っていたんです。今回は見たときに展示のタイトルを見るのを忘れていて。でも、見ているうちになんだか人っぽいなと思って。それで、上下があるっていうのはつまり重力があるということだと思うんですけど、それが今回は一層強く感じました。先ほど見たダンスの映像でバタンと落ちるのも、重力あってこその一つの動きだと思うので、さっきの映像を見ていてそのことを思い出しました。
古谷:今の言葉を裏切るようなのですけれど
柴崎:最近は置いて描いている?
古谷:これって型があるんです。これがもとにあったドローイングなんです。7月の終わり位に六本木でやっていた「アーティストファイル2015 隣の部屋―日本と韓国の作家たち」という展覧会の小林耕平さんの作品の中で神村さんが段ボール箱に墨で描いたドローイングあったんですけど、それを見て、帰ってすぐにこういうのを描き始めたんです。人体っぽい。

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その日のうちにコンビニのコピー用紙を買って、いっぱい描いて8月中ぐらいこういうのばかり、何百枚とかあるんですけど、描いた。それで、その中から割と展開できそうな形で、キャラクター性の強いもの。人間を強く感じさせるような形を選んで、それをコピーして厚紙の上に重ねてカッターで切って型を作りました。

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これを使って全部作っています。型を使う利点というのは、反転できるし、上下逆もできるし、角度も変えられる。手で描いていると上下がある。右に曲がるカープと左に曲がるカーブは体の使い方が違うので機械的に反転できない。そういうことから自由になるというか、むしろ制約なんですけど、意図的に自分の手ではできないようなことをやっています。逆さにしたり横にしたり。大きさっていうのも、例えば紙に描いた場合は、基本的に「紙の大きさ」というのが意識されているんですよ。位置っていうのも全体の中で大体この辺に描くというバランスがあるじゃないですか。型を使うと、もともとあるフレームの大きさとかは関係なくて、この形とこの大きさであるというのが既にあってそれを無理やり当てはめいく感じ。手で描くとどうしても大きさのバランス感覚が働くんだけど、型を使うと関係ない。とにかくこれをここに置いたら自動的にこの形なんだ、っていう。

同じ型を使った形が色んな所にあるんですよ。それが見ていると結構面白いのではないかなと。でも結局作業しているときは上下があるので。できた絵としても上下はあります。
柴崎:それは不思議な感じがしますね。5年前に見たときの少し前に、国立新美術館のエミリー・カーメ・ウングワレーというアボリジニのアーティストの展示があって。『偽日記』(古谷さんのブログ)を遡ってみたら古谷さんも同じものを見ていたんですけど。制作中の写真も展示されていたんですが、床に置いて描いていたんですね。それで、上下があるのか、縦に置いて描くのか気になったんです。前回と一番違うなと思ったのは、線だけが残っているというか、下の紙がないかというか。下のキャンバスが消えてしまって線だけが浮いている状態にしたいのではないかなと思ったのですけど、どうでしょう?
古谷:それは、もしかしたらそうかもしれないですね。この線って油絵具なんですけど、かなり厚いです。筆で描くとこんな風に唐突に厚くはできなくて、絵の具の厚みは型紙の厚みなんです。ナイフで絵の具を乗せて。
柴崎:ここに線の逆のもの、線の部分をくりぬいている作品がありますよね。棚の緑色を背景に貼っている作品と、緑の絵の具で線を描いている作品で、ちょうど反転の関係にあるんですけど、パッと見た感じは同じように見える。線だけが自立しているというかそんな感じがとっても面白い。

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古谷:そう、だからどっかにあるんじゃなくて、どこにもないというか。たくさん見ているうちに、ここ(頭を指さす)の中にできるみたいなことをイメージしている。だから同じ形が反転したり、色んなところにあったりするのもたぶんそういうこと。体じゃなくて、動きを描くみたいな。そういう感じです。
柴崎:1枚だけ見ているとここまで思わなかったかもしれないのですけど、こうやって並べて色んなものを見ていると、どんどん線だけが浮き上がってきて、下の紙というか平面が消えていくような感じがあって、それでより一層線の動きが感じられます。特に面白いなと思ったのが後ろの壁のところにある絵で、キャンバスに白で下地が塗ってあるんですね。それが掲示してある部分の壁とすごく似ていて、キャンパスが壁と一体化しているみたいにたぶん偶然なっていて、それで本当に線だけが浮いている感じが偶然実現していて、おもしろいです。

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