写真展「suomi」本多康司さんインタビュー

聞き手・構成:早水香織

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―― ご出身は?
本多●生まれは名古屋で、育ちは関西です。大学は九州の熊本大学でした。
―― 写真関係の大学ではないんですね。
本多●父親が建築関係の仕事をしていて、その影響から工学部の建築系に進みました。学生時代は旅行が好きだったこともあり、新卒で旅行会社に就職したのですが、2年半で辞めてしまいました。

―― 写真は学生の頃から撮ったりしていたのですか?
本多●祖父からもらったカメラで建築を少し撮っていました。でも本当に趣味程度です。ただ「新建築」などで広角レンズを使って、空間を広く見せる写真が多いのには、何となく違和感を感じていました。
旅行会社を辞めて、1年くらい海外や国内を旅行していた時に、偶然プロカメラマンの方に出会って、そういう仕事があるんだと知って。いわゆる写真作家ではなくて、商業フォトグラファーです。直感で、建築や旅行の経験も活かせて、モノを作る仕事だと思い、目指すことを決めました。その時点で26歳だったので、スタジオマンにはならず、長野博文さんと泊昭雄さんの事務所へ弟子入りさせて頂きました。

―― 弟子入りは長野さんが先ですか?
本多●そうです。2年間、初心者の私で大変だったと思うのですが、色々勉強させて頂きました。基本的なカメラやライティングの事も当然ですが、打ち合わせから納品まで同行させてもらえたので、プロとしての仕事の流れや考え方を教えて頂きました。

―― 長野さんのところはもともと2年契約で?
本多●次のアシスタントもすぐに見つかったので、ちょうど2年でした。その時28歳で、そのまま独立しようと思っていましたが、長野さんは100%デジタルで、作品はネガでも撮っていたので、フィルムの勉強もしたいと思っていました。これからはデジタルで仕事をしていく時代だと解っていましたが、逆にフィルムを勉強できる最後のチャンスかなと。

それで偶然書店で、hinism(ヒニスム)という泊さんが作っている本を見つけて、不思議な質感の写真ばかりで感動しました。
ADが副田高行さんで、藤井保さんや若木信吾さんなども参加されている本です。また泊さんは熊本の焼酎「しろ」の広告も撮影されていて、学生の頃からよく見ていた瓶が泊さんのフィルターを通ると、こう見えるのだと感激したのを今でも覚えています。

実は、長野さんのところへ入社する前に、実家の近所にある大阪の撮影制作会社で半年間、勉強させてもらっていました。その会社によく来ていたインテリアスタイリストさんが東京に来た時、ご飯に誘ってくれて、その席で偶然、泊さんと居合わせて。
その時に知ったのですが、泊さんはインテリアスタイリストからフォトグラファーになった方で、そのスタイリストさんは泊さんのお弟子さんで。そういうご縁があって、泊さんのアシスタントをさせて頂く事になりました。
泊さんは100%フィルムなので、ネガでの撮影方法や暗室を一から教えて頂きました。

―― デジタルからフィルムって大きく変わりますよね?
本多●今まで自分で撮ったネガは、スキャナで取り込んでphotoshopで調整していたのですが、暗室に入って焼くという全てアナログな作業に。
泊さんの場合、アシスタントが暗室に入り、最後のジャッジをしてもらうやり方なので、色の見方を勉強させて頂きました。

―― 本多さんがアシスタント時代、個人的にフィルムで撮っていた作品はどのようなものですか?
本多●「マドリ」という、空間(建築や風景)をミニマムに撮った写真です。
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本多●「マドリ」は写真を撮るきっかけになった撮り方だったので、独立して2年目に個展をしました。

―― 反応はどうでしたか?
本多●どうでしょうか。泊さんのギャラリーでしたし、まだ2年目の駆け出しフォトグラファーで、とりあえず多くの方に写真を見てもらわないと始まらならいという事でチャンスを貰えたのだと思います。でも、今も原点として大切にしています。「マドリ」も少しずつ撮り続けているので、いつかは本にしたいと思っています。