写真展「suomi」本多康司さんインタビュー

―― アシスタントを出て、フリーになってから仕事の依頼は?
本多●なかなか来なかったですね。笑 最初はとにかくポートフォリオをADや編集の方に見て頂き、少しずつ増やしていくという感じでした。なので1年目は夜中に、武道館や東京ドームでコンサートの撤去作業のアルバイトもしていました。

―― 今はKBF、matohu、MHL、mina perhonenなどのファッションブランドの撮影もされていますよね。
本多●いわゆるファッション人物写真というより、求められているのは最初の「マドリ」の部分だと勝手に思っています。余白感とか周りの空間とか。

―― 周りの空間?
本多●そうですね。空間好きなんです。角とか曲線とか。笑

―― 建築っぽいですね。
本多●泊さんからも言われた事があります。笑

―― それは本多さんの強みですよね。
本多●そうなれば嬉しいです。それがたまたまインテリアだけでなくファッションでも使ってくれたのだと思っています。

―― 作品集『suomi』についてですが、mina perhonenとの出会いは?
本多●泊さんが皆川さんと親しくされていて、紋黄蝶も撮影されています。皆川さんがweb用の写真を撮る人を探されていて、泊さんが私を紹介してくれて。2年程、撮影させて頂いてます。

―― そこから『suomi』の写真集へはどう繋がったのですか?
本多●『suomi』の写真はプライベートでフィンランドへ行った時にピンホールで撮影してきました。ただ、なんとなくそのピンホールという手法に頼っている感じが好きになれず、しばらく眠らせていたんです。でも、北欧に何度も行っている皆川さんにはどのように感じるのか聞いてみたくなり、無理を言って見ていただきました。その時に、その場で「いいね、写真展やろう。写真集作ろう」というお話になって。デザイナーの須山さんも一緒だったので、ブックデザインは須山さんにと。本当にびっくりしましたが、嬉しかったです。

―― 展開が早いですね。笑 京都のgalleriaでの展示が『suomi』の一番始めの展示ですよね。
本多●そうです。オープニングパーティーには皆川さんも泊さんも京都に来てくださり、楽しかったですがとても緊張しました。。
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―― 写真集としては、本多さんの初となる写真集ですよね。
本多●そうです。こんなに早く写真集ができると思っていなかったです。もっと長い年月をかけて作るものだと思っていたので。
でも瞬発性も大事で、2週間ばかりで撮ってきた写真で作ることも、別の方法としてあるのだと思いました。まだ早いと眠らせてしまって、結局人に見てもらえない写真も多くあるので。『suomi』は皆川さんに見ていただいた事がきっかけで形になり、本当に感謝しています。

―― ピンホールはもともとやっていたのですか?実験的に?
本多●日本で数回撮っていたので、どのような感じに写るかは分かっていました。
旅行前にGoogleマップでフィンランドを見た時、大陸なのにほとんどが湖で、なんだこれは!なんだこの空間は!と。この中に行きたいという気持ちになって。笑  
その時に直感でピンホールがなんとなく合うのでは、と思いました。浮遊しているような、水の中の景色を水中眼鏡で見ているような感覚になる感じです。山も森も実は湖の中のあるような錯覚を感じられるかもしれないと。

―― フィンランドの空気感や匂いが伝わってくる写真ですね。見ていてやっぱり時間差を感じるというか、立ち止まって見る写真ですよね。
本多●そう感じてもられると嬉しいです。『suomi』はピンホールがとても小さく、どのように写るかは憶測で三脚を立てて撮影しています。
露光時間も10秒~1分ほどあり、その間待たないといけません。でも、この待つ時間がとても心地よかったです。
普段の撮影だと、どうしても良いものを探したい、撮りたいと必死で、ゆっくり自分の目で風景を見ていない事に気付きました。

―― 他に海外で撮った写真はどこかで発表していますか?
本多●まだですが、考えてはいます。去年はドイツへ、今年はイタリアで撮影してきました。
イタリアは夏のシチリアだったので、北欧とは違い、光が強かったです。

―― 見てみたいですね。「光」も本多さんの写真で重要ですよね。
本多●特に自然光が好きです。仕事もほとんど自然光で、たまにタングステンを入れる感じです。

―― それは師匠の影響ですか?
本多●そうです。お二人ともほとんど自然光しか使わないです。

―― フィルムとデジタルはどちらが好きですか?
本多●今はフィルムの方が好きです。でも仕事は半分くらいデジタルです。

―― これから撮ってみたいものはありますか?
本多●面と向かって人を撮りたいですね。仕事としてはありますが、作品としてはあまり撮っていないので。

―― プライベート写真と、仕事の写真は切り離していますか?
本多●できれば切り離したくないです。作品と仕事が混ざっても、同じように見えるのが理想です。仕事で色んな要素が入ってきても個性を残していきたいです。でもADの方にポートフォリオを見て頂く時、プライベートの方が良いと言われ、その度にまだまだだと感じます。

作品でも仕事でも写真を見て、こういうテイストで自分の仕事に当てはめた時に面白いと思ってくれるADや編集の方がいて、雑誌や広告の形になることが理想です。そこがリンクしていくこと。
それと、一人だけでなく、スタッフと作っていくことにも魅力を感じています。
商業フォトグラファーとしてやっていきたいので、それで生活して続けて行く為にも、作品や仕事を通して個性を見せ続けていく必要はあると思います。
年齢だけが問題ではないですが、私もあと5年で40歳ですし、20代のフットワークの良い若手も出てくるので、危機感も持っています。
―― 今後のご活躍も楽しみです。本日はありがとうございました。

(2014年10月20日 吉祥寺・百年にて)

プロフィール

フォトグラファー 本多康司
1979年愛知県生まれ兵庫県育ち。熊本大学工学部卒業。
長野博文氏、泊昭雄氏に師事後、2009年独立。
個展「マドリ」(ギャラリーWALL)、「suomi」(minä perhonen galleria)
http://www.honda-koji.com/