Artist Statement -グループ展『ここかしこの一日』-


・「ここかしこ(此処彼処)」はどういったきっかけで集まったグループですか?

阿部:此処彼処の意味を調べてみると「出典 徒然草 五四「うれしと思ひて、ここかしこ遊びめぐりて」訳》うれしく思って、あちらこちら遊び回って。」と言うのですが、それをグループ名として提案した時にちょうど阿部と赤木と齋藤が長野県松本で遊んでいて、お茶をしていた時だったんです。その状態と提案した言葉が絶妙にマッチしてしまって離れませんでした。

それぞれが旧くからの友人同士で、僕と赤木さんは10年前にグループ展をしていて、同じ室内を二人で創作した経験(その時は共作ではなかった)がありました。その展示に齋藤さんも見に来てくれて、昨年の年初めにご飯をした時にその話をきっかけに「いつか何かしたいね~」と会話した後、コロナの緊急事態宣言中に赤木さんがもう使わない写真を数枚、僕と齋藤さんに送ってくれて「好きにして」と言われたのでその写真に絵を描いたり、立体物のオブジェにしたものを送りあって遊んでいました。この作品が集まったら展覧会もできそうだ、など。
それから、ここかしことして美術館のコンペに出した時が4人での活動を始めた大きな出来事だったかなと思います。コンペには落ちましたが美術館の展覧会として何をするか、と言う話がきっかけとなり、今回の一日さんの展覧会に繋がった感じです。

・普段「ここかしこ(此処彼処)」はどういった活動をしていますか?

阿部:ここかしことしては、もう、4人で遊んだらそれが活動の一つみたいな気持ちです。

・今回の展示(会場)はどのようにして作り上げましたか?

阿部:展示するにあたって会場のどこに何をしようか、という計画をしました。
自己紹介のスペースがあって、みんなで作ったものを置く場所(五線譜の棚)(凍った湖)、作品販売(ここかしこ旅の土産セット)の場所があって。展示空間にその説明がありませんが、展示空間のイメージをすり合わせながら作り上げました。
4人で話しますから、またそれぞれが友人であり表現者なので意見が「なんでもあり」になりがちでした。「なんでもあり」は言葉の受け取り方もありますけど、それで決まっていくことは見に来る人のことまで考えていない感じがして僕はそれだと作りづらいので、「ここに何があったら愉しんで見てくれるのかな?」という意識で意見をもらっていました。

・実際におこなった「旅」を作品にすることにおいてどのようなことを意識しましたか?

赤木:旅の間(一人で旅をする時と同じように)フィルムカメラで写真を撮っていたのですが、それを現像してデータ化した際に自分の手から離すことを決めました。それで皆に全データを渡した結果、今回の展示において私は写真のセレクトもプリントもしないまま展示が無事に完了しました(笑)
個展の際は、自分でプリントすることや、選んだ写真が空間で並びとして成立するかなど色々とこだわっている点がありますが、それは個展でやればいいことで、「ここかしこ」として何かを作る際には必要ないことだと感じています。
皆で旅をして「ここかしこの作品」になる前段階の「作品?になりそうなものたち」がそれぞれから出てきて、それを各々へ循環して、、という作品予備軍の行き来も旅ぽいというか。信頼して委ねる、面白がって成り行きに任せる、、みたいな流れも旅のようでした。というか、作品を作るとは考えないで、普段遊んでいる感覚がそのまま形になるといいなーと、気負わないことを意識していました。

阿部:4人で作るものの中で、プラ板を一緒に作るというのが今回のメインイベントのような気持ちです。
なんでプラ板かと言うと、最初に齋藤さんの書いた旅の文章が送られてきた時に手紙に書いてあった「凍りかけの湖」という言葉に触発されて、その旅で松原湖という湖を歩いたという思い出と、旅全体を通したそれぞれの思い出が、湖に張られた氷が割れたりしてバラバラなんだけど一つの湖にあるという感じの作品が作りたいなと思い立ちました。
プラ板の裏表が透けて見える感じやその素材感と合っていましたし、誰かが描いたプラ板にプラス(あるいはマイナス)して焼くのはそれぞれにお願いする。4人でしか作れない旅の思い出が入る事が重要でした。

池田:作品にするとは考えずにとにもかくにも旅を楽しむことです!と言うと馬鹿みたいに聞こえますが、より鮮明に思い出すということにおいては大事だなと思います。

齋藤:実際の旅自体に肉薄するというよりも、何度か集まって思い出したり会話しながら制作することを通して、当時はあまり気に留めていなかった些細な出来事が膨らんだり、会話内容が忘れられて光景だけになったり、すっかり忘れていたことを写真を見て思い出したり、そういう凍りかけの湖ような運動性をそのまま受け入れて面白がる意識でいました。

・メンバーの方それぞれが別ジャンルの表現をなさっていらっしゃいますが、影響を受けることはありますか?

赤木:旧い友人ですし、それぞれの作品から何かしらの影響を受けていると思いますが、皆でお茶をしたり美術館に行ったりという遊びの時間の中で話すことが自分の作品に返ってくる感じがあります。
あとうまく説明ができないのですが、感覚的なところがよく似ています。
今回初めて一緒に展示をして、作品設置の際の可・不可の判断がかなり似ていて面白かったです。それも長年の積み重ねで、影響しあっているからなのかもしれません。

阿部:影響はあります。年齢も近いし、普段はみんな別々の場所で活動していて、みんな制作活動の他に仕事をしながら生活しています。その中で個展を開くとかライブをするとか、制作を続けられていることが僕の制作の励みになっています。

池田:作品をみるだけでなく話したりできる間柄なので、色々な発想を吸収させてもらっています。

齋藤:赤木さん阿部さんに対してはもともと油絵を描く先輩で、当時からなんだかどういうつもりなのかパッとはわからない魅力的なことをやっている可愛い人たち…という、人としての憧れが根本にあります。こんなに段々仲良くなれて自分の人生は最高だと思います。なので私はだいぶ影響は受けてると思います。ジャンルに関しては、受け入れられたり勝負している界隈が今違うだけで、案外同じことをやっているように思っています。(自分だけ?)
夜に花を照らすことについての作品をそれぞれがそれぞれ別の方法とタイミングで作っていたことが判明したり。
池田は音楽という自分にとっては神の仕事みたいなものを触れる地上までもってきてくれる天使のような存在です(音楽天使)。夫なので何かを見たり作ったりする折に会話をする量が多いですが、培ってきたジャンルが違うからこそわかったふりをしない繊細な視点に随分助けられています。

・影響を受けた本、おすすめの本、○○な時に読み返す本など、なにかあなたの1冊を教えてください。

赤木:池澤夏樹さんの「スティル・ライフ」
最初のページを読んで、これは私にとって特別な本になるなと。
「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。」という出だしから最高です。写真についての話も出てきます。私も思っていることが文章になっていて、それも最高です。

阿部:「スキップとローファー」という漫画がおすすめです。青春時代を癒してくれる漫画だと思います。

池田:最近はもっぱら伊坂幸太郎を読み漁ってます。おすすめはサブマリンかな。

齋藤:池谷裕二「進化しすぎた脳: 中高生と語る「大脳生理学」の最前線」
どんなに元気がなくても自分の元気があるないの向こう側にいけるおすすめの本です。対談で読みやすいし。

・今後の活動予定があれば教えてください。

赤木:8/21〜9/2に学芸大学のSUNNY BOY BOOKSさんで個展があります。花と車の写真の展示です。新作の花の写真集も出します。

阿部:7月から展覧会の予定がないので、募集中です。ステイホーム活動としてはオンラインストアの準備などしているところです。

池田:今年開催の予定が延期になっていますが、越後妻有トリエンナーレにオンゴーイングコレクティブの一員として参加します。

齋藤:2022年に都内で2つ展示がある予定です。
うちひとつは東京都渋谷公園通りギャラリーでの[レター・アート・プロジェクト「とどく」]という、手紙のやりとりをしながら展覧会に向かっていくプロジェクトで、私は聴覚障害を持つ方とやりとりをしています。時々ブログが更新されていて、今年の8月中にトークも配信予定なので是非チェックしてみてください。
https://inclusion-art.jp/archive/event/2022/20221231-79.html


【プロフィール】
ここかしこ(此処彼処)
メンバー:赤木遥・阿部龍一・池田諒・齋藤春佳

写真家、画家、美術家、音楽家として活動を行なってきたそれぞれのメンバーが、
その活動の中に自然とあった”様々な場所を訪れること” ”そこから作品を作ること”
という共通項において遊び愉しめるという期待から結成されたグループです。
手紙、カレー作り、凧揚げ、お喋りなどの遊びを得意としています。

Instagram @koko_kashiko
Mail: kokokashiko_letter@gmail.com

赤木遥https://harukaakagi.com
阿部龍一https://abepuici.tumblr.com
池田諒https://www.youtube.com/channel/UCGKztdR39baUP5w91lKuwBw
齋藤春佳http://saitouharuyoi.web.fc2.com


グループ展『ここかしこの一日』
2021年6月30日(水)~7月11日(日)

この展覧会は、昨年の冬に4人で長野県上田市と小海町へ
旅をした出来事を元に共作したものを展示しています。

 齋藤がかつて展示でお世話になった小海町高原美術館を訪ね、池田の地元である上田の街を散策した3日間。「楽しく思ひて ここかしこあそびめぐりて」が此処彼処という言葉の由来ですが、その言葉を体現するように、旅での楽しかった思い出を作品に込めました。
 これまで各々が作家として活動し発表してきた領域を互いに行き来することで、絵から音楽が生まれたり、写真から文章を書いたり、それをプラ板や箱の中に再構築したり、、自分が作ったものに他の人が感化されて新たな作品が作られていくこと、同じ時間を共有していく中で交わされる会話、ただの遊びから何かを見出せるという体験を私たち自身が愉しんでいました。

皆様にも、ここかしこ遊び巡りて、その愉しみを共有していただけましたら幸いです。

展示告知ページこちら



2017年にオープンした古本屋&ギャラリーです。古本屋「百年」の姉妹店です。
吉祥寺駅から徒歩3分。
写真、イラストレーション、絵画、立体、映像など、ジャンルは問いませんのでぜひご相談ください。
事前にメールにてお問い合わせ後、作品のイメージが伝わるもの(ポートフォリオ等)をご持参のうえ、どのような展示にしたいかをご提案ください。

5日間(水~日曜):15,000円+2,000円(税抜)
11日間(水~月曜&翌水〜日曜):30,000円+2,000円(税抜)
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