本「と」本を読む人vol.6

聞き手・構成:チェルシー舞花

本と読む人、第6回目はトリルのユカワアツコさん。
イラストレーターの他、てぬぐい というバントのアコーディオン奏者でもある。
現在は長屋をリフォームして旦那さんと猫のハチと共に暮らしている。

台所に立って、やかんをしゅんしゅんと鳴らしながら、
お茶の用意をしてくれたユカワさんの姿勢が美しくて、
ユカワさん描く細密画の穏やかで真摯な空気をまとっているのは
日常のいとなみを丁寧にこなすからこそなのだとひそかに思った。

一柳さんの一日は、だいたい朝の7時半から始まる。午前中は家のことをすませ、午後は絵の仕事。
昆虫、魚などの細密画を描いてきたが、この10年近く鳥ばかり描き続けている。
音楽教室の受付のない日は、資料用のカメラを携え、公園に散歩へでかける。

○鳥のこと

ユカワ●夏は午前中に公園にいくこともあるかな。鳥は朝早く行かないと、まったりタイムに入っちゃうから、たまに夜が明けない内に公園に行ってしばらくベンチに座っていると、だんだん太陽があがってきて、蝉も鳴き出して、鳥がわあーーーっと盛り上がるんだけど、7時半位にピタッと止まるんだよね。それで、また8時くらいになるとまた少しわあっとなる。何回行ってもそうなんだよね。

―― 鳥をたくさん書いていますが、好きな鳥の仕草は?

ユカワ●飛んでない静かな姿、もっと静かな眠っている姿も好き。
この間、眠っている鳥をまとめて書いて展示して、ますます良いなと思った。

―― 寝ていてふくふくしているの、たまらないですよね。

ユカワ●うんうん。ポポタムギャラリーで6人展があって。
(「6人展 ふゆごもり」おくはらゆめ、そのだえり、中沢美帆、西 淑、みやこしあきこ、ユカワアツコ)
あ、原画がちょうどここにある。全部売れて、手元を離れちゃうんだけど、
自分の中でもうまく描けたほうだと思う。

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そう言って見せてもらった絵はうまく書けているなんて言葉では足りない。
すきとおった時間がよこたわっているようでうっとりしてしまう。

ユカワ●これは雁金っていう鳥で…楽しかったなぁ今回描くの。アクリル絵の具で薄く下塗りをして、鉛筆で陰影をつけていく。鳥が描けたらまわりをアクリル絵の具で厚く塗りつぶしていって、背景を鉛筆で描いてます。

いったい何時くらいに観察に行けば寝てる姿が見れるのかな…と思って、公園や動物園に相当通ったんだけど、予想していた夕方は意外と寝てないことが分かった。寝る前に「寝るよー!」ってひと騒ぎする。急にハイテンションになって。

そして本当に寝てるときはもう暗くなって資料写真を撮りづらくなってるわけ。
いろいろ通ったあげく、お昼の11時半が一番寝ていることがわかった。

公園に一年通してずっというカルガモとかアオサギなんかは安心しきって寝ていて、ゴイサギにいたっては手を伸ばせば届くようなところで熟睡してる。
もっと描きたいな。小鳥が寝てるところなんかも。まぶたが下からあがってきてさ。

○家のこと

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ユカワ●この家に引っ越してきたのは震災のあった年の6月だから…4年前。あの時は余震も多くて、この先どうなるのかわからない状態で。このまま東京に住めるのかもわからないのに引っ越して大丈夫だろうかって不安はあったんだけど、震災時に住んでいたマンションには大きなヒビが入ったのに、この築80年過ぎている長屋はびくともしてなくて。建築士の方に聞いたら、長屋っていうのはお互いが支え合うし、木造はたわんで衝撃を吸収すると。

―― この本棚を作ったのは誰ですか?

ユカワ●私です。笑
ホームセンターで木材を切って配達してもらって。金具がみえないように組むこともできるらしいんだけど、やり方がわからなくて…。あ、本棚の設計図を書いたのを記念にとっておいたんだった。
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―― わああ…細かい所まで綿密に書いてありますね。寸法の数値から、その場所に入る箱の数まで。

ユカワ●作業箱はもともともっていたものだったからそれにあわせて。

―― なるほど、収納量が決まっていてつくってるんですね…

ユカワ●うん。制限が合った方が設計図作りやすい。
これ、「めだか」とか書いてある!飼ってない。笑
作った設計図見ながらうんうん唸っていたら、リフォームの会社の人が「棚の窓の前の棚をぎりぎりまでつくると部屋に影が差すから、窓辺は段数減らして低くした方が良い。」ってアドバイスくれて変更したんだよね。たしかに設計図のまま作っていたら圧迫感があったかもしれない。

3いちやなぎさん018 のコピー

本はだいたい年末に古本屋さんに引き取りにきてもらうんだけど、去年は4箱から5箱出した。これは出せる、これは残しておきたいっていうのを何回か繰り返すと、これを残したいものっていうのがどんどん増えていくわけだよね。けれど本棚には限界があるんだからそこを頑張ろうって二人で泣く泣く。年明けにだいぶ空いたんだよ。でも三月で満杯。笑

早くも平積みコーナーができちゃって。全部縦にしたいのに。下の方は自然と読まなくなって、検索性がなくなるから。

―― 二人の本はどういう割合であるんですか?

ユカワ●旦那さんが7で、私のが3。ごめんねー。今朝、取材にくるんだよって言ったら、「俺の本ばっかりじゃん。大丈夫なの?」って言われた。「大丈夫だよ、私も読んでるから」って。笑

自分で読むつもりのない本がどんどんささっていくから、すごいね、古本屋さんにいるような感じで。知らない本がいっぱいあったり、入れ替わったり、おもしろい。

前住んでいたときは平積みで柱が何本もできてたから、ここに越してくる際に、本さえなんとか収まれば、床面積はキープできなと思って、壁一面本棚を作った。
リフォーム会社に「こことここは天井まで本になるんです」って伝えて床下の下地になる根太を倍にしてもらったの。本棚の下の床はものすごい補強されてる。木造だし、たわんできちゃったら困るから。

――  一柳さん宅にはハチという名前の猫がいる。

ユカワ●Tsuki No Waのフミノスケさんの家に来ていた野良猫母さんが生んだ4匹のうちの一匹。でもなんだか猫らしくなくて。天井裏にねずみが出た時、威嚇してもらおうとハチを天袋からハチを送り込んだものの、キョロキョロするだけでなにもしないので、おなかをもんだら、しかたなしに「みいいいーー」って鳴いて、それだけ。そこの角の酒屋さんに”エノ”っていう名前のボス猫がいるんだけど、江ノ島の魚屋からもらわれてきて、酒屋についたその日からネズミが一匹もいなくなったんだって。エノには迫力があるから。一回、ハチが逃げた時に、道でくつろいでたエノのところに一直線に走って行ったんだよ。野良の子どもながら野良生活を体験していないハチは、猫の世界のルール…例えば顔をじっと見るのは喧嘩うってるってこととか全く学んでないもんだから、エノの顔をじーっと見ながらムニャムニャ挨拶し続けて、強烈なパンチくらって。笑 「え~なんで~」ってなってた。

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ちょっとおバカでかわいいと言われてます。

○二階にて。の

ユカワ●もうすぐ発売になる新しい商品が昨日届いたんだよ。

―― わあ…かわいい!マッチですか?

ユカワ●ううん、室町時代の御伽草子をもとに私が絵を描いたんだけど、すごく小さいグリーティングカードなんだ。描いたサイズから60分の1位の大きさになってる。商品にしてくれたのは倉敷意匠計画室さん。ミニカードの他にお伽話の内容をまとめたものと簡単な解説がついていて。

―― カードの題材になっている「雀の小藤太」はどういった話なんですか?

ユカワ●雀の小藤太はとっても良い話だよ。

そこから私のお伽草紙好きが始まったんだ。初めて見たのはサントリー美術館だった。

えっと、

雀の小藤太が奥さんとなかなか子どもができなかったんだけど、願掛けしてやっと赤ちゃんが生まれたの。
ところが、両親が餌をとりに行っている間に蛇に食べられてしまった。小藤太は悲しんで「生きとし生けるものは子を思わぬものは居ないのに、なんというあさましいことをしてくれたのか」と蛇を責めつつ、

「仇をうっても子は帰らぬ、そしてまた罪がひとつ増える。我ら夫婦は髪をおろし、墨染の衣を纏って、仏の道を歩もう。必ず極楽浄土に往生し、愛しい嬰児と蓮の上にてあいまみえる。それ故もうお前を恨みはしない。」語り、蛇はとても恥じ入った。そうし小藤太たちが出家するらしいと伝え聞いたいろんな鳥たちが飛んできて、お悔やみの和歌を送るんだよね。で、鶯が来て、くいなが来て、お悔やみを伝え、白鷺もきましたと。雁金、四十雀、鴛鴦も来ました。そして奥さん雀とお別れの時、お互いなかなか離れがたく、竹林をぐるぐると飛び回りながらさよならさよなら、と言って別れた。梟の和尚さんのところに行った小藤太は髪を剃ってもらう。修行の旅に出た小藤太。清水寺や近江八幡に行ったりして仏道を進む。

しだれ桜のもとに立った小藤太は「鳥の身であったころはこの花を足の下に踏んでいた」と。

「私は何もわかっていなかった。今はこうして手を合わせるのみだ」と。最後は竹林に庵を結んで、そこを雀の森と呼んで、踊り念仏を考え、100歳まで踊って過ごした。って書いてあった。絵巻に。

でも「雀百まで踊り忘れず」ってことわざがあるから、たぶんそれにひっかけて、小藤太が百歳まで生きて踊り念仏を踊ったってなっているんだろうって研究本には書いてあった。このカードは紙芝居みたいして話すにはちょっと小さいね。笑

OTOGIZOUI (1)
photo by atsuko yukawa