本「と」本を読む人vol.6

―― 先日倉敷意匠アチブランチという計画室の実店舗に行ったのですが、とてもよかったです。トビダストリーが置いてあるのも見てきました。

ユカワ●すごいよね。自分の店で作ってあつかっているものであの面積を埋められるって本当に。
いわゆる自社製品だけであそこまでやれるなんて。

―― 倉敷意匠が発行している「紙ものカタログ」や「職人仕事の日本」をそうとは知らずに買っていて、あとで倉敷意匠の実店舗に行って初めて名前とやっていることがリンクしてとても驚いたのですが、すごいなと。空気感が一貫しているところが。トビダストリーも倉敷意匠の田邊さんと始めたものなんですか?

ユカワ●そう。羽根箋(はねせん)※ていう名前の一筆箋をだしていて、
自分で印刷してカッターで切って組み立てて、色んな所に置いていてもらってたのをどこかで計画室の田邊さんが見かけて、で連絡が来て「何か一緒にやりませんか」って連絡してくてくれた。

試作品もなにもできてない状態だったんだけど、「実は飛び出す鳥のカードをやってみたいんだ」って私が言ったら「聞いただけでも面白そうだから、是非うちと一緒にやりませんか」という話になって。打ち合わせに倉敷からはるばる西荻窪まで出てきてくれたんだ。

まったくキャリアのなかった私に声をかけてくれて本当にありがたかった。
それまでどこかで商品を出したこともなければ、個展を一度FALLでやったきりだったから。ありがたい。

(グリーティングカードを眺めて)…ちいさいー。

―― 笑

ユカワ●ミニサイズでも
絵がつぶれず細部まで表現できてるところを見ると、いいところに印刷出してくれたんだなあと思う。
これを持っていたらどういう用途で使う?

―― 人にお土産やプレゼントをあげるのが好きなので、ラッピングして十字にくくった紐の間にこのカードをはさんでいれます。名前を書くスペースはあるからちょろっとだけ一言書いて。もてあます余白のカードよりうれしい。細密画が本当にすばらしく、小藤太の切手なんかが出てほしいと思いつつ…

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開いて置いてあるのは挿絵に魅かれてかったという本のページ。

――二階に本棚の前に電気スタンドがあるということは…

ユカワ●そう、布団、電気スタンド、読みたい本、という最高の状態がここにできる。
下で作業したりするけど、上ではふとんに入って本が読めるっていう状態がキープされてるの、ここに。

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―― 最近読んでる本はなんですか。

ユカワ●最近はね、
あ、これは連続して何回も読んでいる本。梨木 香歩の「鳥と雲と薬草袋」
枕元に置いてるのは自然と短いエッセイみたいなものが多くなるね。

あと歴史娯楽ものが好きで、今は「うだつ屋智右衛門 縁起帳」井川香四郎/著。

江戸の天保の時代、不況になったつぶれそうな大名家や大店の財務を見直すのが得意なプロ集団、うだつ屋。

プロ集団、みたいなのが好きなんだよ。
ミッションインポッシブル的な、この人は調査が得意、この人は計算が、みたいなメンバーが6、7人あつまっている話。
これも古本屋さんで見つけたんだけど、どうすれば経済が立ち直っていくかっていうのも学べる。基本的に人情物なんだけどね。裏表紙の謳い文句には「取り潰し目前の潘から傾きかけた大店までよろず再建し、うだつをあげる専門家、うだつ屋こと、朝倉智右衛門が思いもよらぬ奇策と人情で不可能ごとを飄々と成し遂げる大好評シリーズの第二弾。今作では、帳簿読みや情報収集の専門家、剣の達人、謎の舟宿女将など曲者そろいの知恵ものの部下たちも活躍。熱き思いで家や店だけでなく人の心を立て直す!」って書いてある。

―― ううん、面白そうです。それを聞いて思い出したのが浅田次郎の天切松闇語りのシリーズです。

ユカワ●あ、知ってる…!読んでた。読んでた。忍び語りのやつだよね。

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―― その後旦那さんの持っている「忍者の生活」についての本のはなしなど…改めて、良いお家ですね。

ユカワ●自分では気をつけているつもりでも、生活のほこりというか、オリというか、そういうのが溜まってくるから、気を抜くとあっという間に散らかってしまう。元々散らかしがちな性格なんだよね。先日のグループ展のために鳥を描いてる間なんて、紙が床一面に散らばっていて。もうハチが喜んじゃって紙の下に潜って「いやー最高!」みたいな感じになってたけど、やっと最近戻ってきた。

―― 家にいる時、絵を描く時の切り替えはどうしてますか?

ユカワ●うーん、たしかにここからオフっていうのは特にないんだよね。
その分二階に上がれば、ダラダラできるみたいな感じで、下にいる間はつねに仕事場みたいな気持ちになちゃってるから、
なかなか下ではリラックスできないというか。
うん。

―― これからてぬぐいの活動はを教えて下さい。

ユカワ●4月29日に阿佐ヶ谷のよるのひるねでライブがいっこ。
5月22日には、いつもてぬぐいにゲスト参加してもらっているmangnengさん率いる「マンネンプラネットバンド」で数曲参加するの。このライブでは、すごく憧れているバンドと対バンで。オファー来て即「絶対出ますー!」って。

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家を出る直前、パタパタとキッチンへ走るユカワさん。
ふきをたくさん買ってきてふき味噌をたくさん作ったので、おすそ分けして頂いた。

取材後、ユカワさんと所縁の深い西荻窪のショップ&ギャラリーFALLへ。

3月末で店舗のお引越しをするFALL(新店舗は西荻窪駅北口を出て左手に折れ、5分ほど歩いた道沿い。4月末プレオープン予定とのこと)

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店舗のお引っ越しする三品さんの話にお腹を抱える程笑い、夜が更けていきます…

―― ちょうど、FALLで展示しているのは、倉敷の古書店「蟲文庫」の店主、田中美穂さんの著作「胞子大全」の挿絵を描いていた人の展示。

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祖父江さんの事務所で働いていた人が独立して装丁した本。
店内の展示の内装も彼がディレクションしたそう。
長年お店をやっていて、初めて、机を横にする方法に出会ったと言っていました。

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ユカワさんのトビダストリー。
カードを開くと、鳥が仕掛け絵本のように飛び出します。

※羽根箋ほぼ原寸で描かれた鳥の羽根の一筆箋です。ひとこと添える一筆箋に、読書のしおりに、グリーティング・カードに。

ユカワアツコ
1967年 宮崎県生まれ。2009年、鳥の絵や細工物を制作する一人工房「トリル」をはじめる。新潮社クレストブックス「美しい子ども」や梨木香歩「冬虫夏草」ほか装丁画も。またバンド「てぬぐい」のアコーディオン奏者としても活動している。FALL レーベルより、CD「ki ki na shi」をリリース。

http://www.gettosha.com/10-trill/trill-00top.htm