岡田喜之さんインタビュー

聞き手・構成:脇山妙子

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イラストを描き始めた頃

―― イラストを描き始めたきっかけを教えてください。

岡田●サラリーマンをやっていて、転職をきっかけに空いた時間ができて、その時に「これからなにやっていけばいいのかな・・・」と思ってたまたま本屋さんで色々見ていたら「セツ・モードセミナー」って書いてあって。それで本当にこれは偶然なんですけど、電話したら「明日が入学の日で、早い者勝ちだから早く来なさい」ってその場で言われて。で、次の日早く行って入ったんですね。 本当にたまたま。なんにも考えずに入りましたね。あと安かったので。セツはそういう貧乏なひとでも入りやすい学校で。

―― はじめからこういう感じ(展示されている動物の作品を指して)のイラストを描いていたんですか?

岡田●初めは学校で一応デッサンっという授業があって。自分ではどういうものが描きたいというのがまるでなかったので、その授業の中でてきとうに・・・。笑
セツの学校のすごいところが、先生が何も教えないという。教えないんだけど、水彩の授業だけ最後に合評会というのがあって、学校は何も教えないからとにかく色んな絵が並ぶんですよ。だから自分で勝手に色んな絵を吸収して勉強しなさい、みたいな。だからどんな絵を描きたいっていうよりも、学校入って進む方向を決めなくちゃいけないと思っていたんですけど、学校は何も教えないし、色んな絵が並んじゃうから自分でもどんな絵が描きたいかずっとわからなくて、こういうふうになったのは2年くらい前です。3年くらい前に脱サラしよう!と。人生の最後に、諦める前に思いっきり絵を描きたいなと。まだその時何も自分の描きたい絵が見えなかったんですけど。描きたい絵が見えないというのは結構きついんですよね、なにをやっていいかわからないから。どういう仕事に進めばいいかもわからないし、このままじゃまずいし・・・って思っていて。で、仕事があるままじゃ絵が描けないじゃないですか、だから貯金を1年間思いっきりして、このお金が尽きるまで家に籠ろうと。で1年半籠ったんです。本当に。

―― すごい、仕事しないで、ずっと描き続けたんですか?

岡田●1年半籠り、描きました。3年前に脱サラして、1年半籠ってお金が尽きた時に百年さんに来た( ※2013 年2月第1回の岡田さん個展「やさしいかお」)。で、百年さんで個展をやらせていただいて、ここで一旦終わった。終わったっていうかお金が尽きたんです。だからそこでもう一度やっぱり働かなくちゃな・・・という時期だったので最終的に個展という形で締められてよかったなあと。

―― え、締めちゃったんですか。本当ですか?!

岡田●今も学校(セツ・モードセミナー)をやめていないんですけど最後のほうにわかったのが、人の顔が好きなんだなって。最後の最後で気づけて。

―― 描いていて楽しいっていう意味ですか?

岡田●そうですね。なんか、イラストレーターというのにならなくちゃいけないのかな、絵だったらそういう道しか選べないかなと思っていて、そうなった時にニーズとか考えてしまうと色んな絵が描けなくちゃいけないのかなって勝手に思っていて。偏った考えがあって自分が顔が好きだっていうのを忘れてたんですね。

―― それからは顔ばかり描き続けたんですか?

岡田●本当にアホみたいに顔ばかりをこの前まで。笑

―― 2013年・14年イラストレーションに掲載され始めたのはどういう経緯なんですか?締めたと仰いましたが個展の後に何があったんですか?

岡田●百年さんで個展をする前も1・2回出したことはあったんですね。でもその前は自分が何描いていいかわからなかったので、迷ってる絵を出しちゃっていたんです。でも、そういう活動(応募)しないといけないんだな・・・って。まわりもしているので。一応やっていたんですけど、描きたい絵でもないし、そんな絵だとやる気もしないので公募もあまり出していなかったのですが、ここ最近やっと自分の好きな絵が描けてきて。自分が好きだから評価を聞きたいので積極的に公募に出し始めました。

―― 印象に残った講評はありますか?

岡田●絵のことをあんまり考えていないんですよね。というか、自分の絵に対する考えを深く掘り下げたりしない。なんでかって言うと、考えたくないからです・・・笑

―― 笑

岡田●それで、周りの人がよく絵の説明をするじゃないですか、そういうのを見ていると、しなくちゃいけないんじゃないかってずっと思っていたんですよ。でも何も考えてないから思い浮かぶわけもなくて。まずいのかな・・・って思っていたら、横尾忠則さんがなにかの対談で「絵の説明なんていらないんだよ」みたいなことを仰っていたんです!それで自分は絵を楽しんで、絵を嫌いにならないで続けることが一番大事だと思ったので、今では自分が嫌だと思ったことは全部排除してやっています。こういう考えになれたのは今まで絵の仕事をしたことがないからかもしれないですね。これから絵の仕事をしたら色々考えるようになってくるのかもしれないですけど。 で、印象に残った講評でしたね。皆川さん(皆川明さん) ※1 の「見えているのは形ではなく心の様子か」これがすごく嬉しかったです。 モチーフをそのまま描くということ自体まず苦痛なんです。見たまま描くというのがめんどくさいしつまらない。この絵になったのは、自分が嫌いなものから逃げていった結果、楽しく描くことだけを突き詰めてこの形になったんです。例えば絵の具は乾く時間が待ちきれないから無理だなあとか。絵を描く上で強い気持ちが溢れる時、色鉛筆ってダイレクトで、その瞬間の気持ちをすぐパッと描けるのがいいんです。俺は写真見て描いているんですけど、すごく好きな顔だったり、好きな色を身につけていたり、好きな形・・・鼻の形とか、目とか、少しでもないと描きたくならないんですね。好きな部分があると、その一瞬自分が強く感じた雰囲気を表したいと思って描きます。だから皆川さんの言葉がすごく嬉しかった。無理して描いたところが一個もないので正直な絵です。最近無理して描いてもいい絵が描けないとやっとわかったので。そういう時は離れます。