本「と」本を読む人vol.4

今回、取材をお願いしたのは、
ブックショップ「UTRECHT(ユトレヒト)」勤務の書店員、黒木晃。

最近は、自身の編集した写真雑誌 ”Curtain (カーテン)” が出版されたばかり。

作業していた自宅の部屋には壁一面にテストプリントが貼られ、
在庫の段ボールが積まれていた。
雑誌を重ねて足にした机の上にはまた本が重なり、本であふれている印象。

本を扱う仕事をしながら、ゆっくりと本を出版するまでに至った黒木について少しご紹介。

ユトレヒトへ務める少し前、
大学卒業後の2011年にスケボーで大腿骨を骨折し3ヶ月の入院生活を送ることになった。
乗りはじめて数回で骨折した黒木の武勇伝は今でも語り継がれる。

入院している間は家にある本を持ってきてもらったり、
とにかくひたすら時間があったという。
入院中に一度実家に帰った際、二階の自分の部屋まで階段であがるのを
転んだら危ないからと母に止められ、随分とくやしかったらしい。

車椅子と松葉杖で移動できるようになったころ、
近くの本屋さんに行った時の感動がすごかったという。
普通の街の小さな書店だったけれど、なんて楽しいんだろうという感覚。
最近はその感覚も薄れてきてしまったというものの…

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―― ここの本棚は?

途中までで読み終わってない物もあるけど、
好きなのは「ルイス・カーン建築論集」学生に講義しているものの翻訳版。
建築について語っているんだけれどもそれだけでもないというか、それが良くて、
気になった箇所を書き写して。 結構好きな本はそういうことする。

―― それをあらためて読み返したり?
する。
入院していたとき、暇だから本を読んで、好きな箇所を写経のようにバーッと書いていて。
あんまり本に文字を書くのは好きじゃないから、ノートに。

―― 入院中読んでいた本は?
ルイス・カーンと、小林秀雄て批評家と数学者の岡潔が対談している「人間の建設」っていう本。

―― すごい付箋がついている…!ノートにも付箋が。
何回も読んだ。すごい面白い。
ノートを後々また読み返して、あまりピンとこないのもあったりするから、
また気になったら、そこに付箋を貼って。

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―― 「哲学の自然 / 中沢新一・國分功一郎 著」 って本の付箋も多いね。
うん、面白くて。
あとは、
ずっと読み終わらない本もあって、1、2ページ読んでまた置く。
面白いから読み終わりたくなっていうのもある。

「ぼくは覚えている/ジョー・ブレイナード 著」
この本は「僕は覚えている…」で文章が始まるってずっと繰り返される。
詩のような、散文、小説でもあるし、つながってたり、関係なかったり。
あとは建築家の青木淳の本「原っぱと遊園地」とか。

この人の本も、建築以外の考え方にも通じるというか、
建物が原っぱみたいな空間であることが理想だということを言っていて。
例えば部屋がリビング、寝室、そういうもともとその機能のために
分断されている状態よりも、使う人が自分で創造していく、
そういうことを掻き立てる場所の方が面白い、ということを考えていて、なるほどなーと。

“Curtain”を作る時に、どういうコンセプトにしようというか、
文章にしようという時に、なかなかまとめられなくて、
青木さんの考え方か面白くてヒントになりそうというか。

000491390017手にしているのはベンシャーンの”ある絵の伝記”

―― 雑誌をつくるまでの流れは?

コンセプトがまとまっていたのは最初から。雑誌をやりたいなと思っていたけど、
雑誌という形態を使って作りたいなと思っていて、写真で、ていうのは決まっていた。

“Curtain”という誌名に決まる前に、雑誌のコンセプトを舞台芸術の制作会社precog(プリコグ)の中村茜さんに話して、タイミングよく来日の予定のあった池田扶美代さん※1を撮りたいと頼んで。撮影は写真家の小池浩央※2さんにお願いした。

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000491390013Curtainの段ボール。これから書店に並ぶ。

―― 名前が決まった瞬間は?
文章を書いていて、自分が言いたい事をまとめていて、
本から書き出したノートにさらに付箋をはっていたのはこの時で、
本を作るにあたって、関係してそうだなっていうのを付箋貼っていって、
見てくと結構つながってるかもなっていうのがあって。

境界、距離、どこに自分がいるかとか、そういう話を考えていて、
自転車に乗っている時にハッと思いついた。

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「カーテン」は、しきりを作るものでもあるし、外の視界から自分を守ってくれる物でもあるし、
それが絶対的に作られた境界じゃなくて、仮の境界と言うか揺れ動いているもので、
自分で開く事もできるし、閉まっているという事はその向こうがあるという事を
想像できるもので。部屋の中と外をわけるものでもある。
舞台とかだったら、舞台と客席をわけるものでもあるし、繋いでいるものでもある。
そういうことがその本が、こう、ある状態の時に、
本は閉じてあるけど中はそこにあってそこを開けば、中の世界は広がるし、
閉じても見えないけど、ある。

―― 良い名前ですねえ。

そうなんですよ。(笑)
もとは、普通に使っている言葉を名前にしたいって思ってて。
変な造語じゃなくて、抽象的な言葉でもなくて。
石みたいな。こうやって、ころころと転がせるような。
だから、ちょうどいいなと思って。
それから結構、明確になってきたというか。

本の装丁は、長尾周平くん※3 に頼んで。

長尾くんとやれてよかった。自分が感覚で話してもわかってくれたから。
「部屋においておきたくなるような本がいいんだよね」って言っても、
「わかるわー」ってなんとなく伝わる。
そういう所でコミュニケーションでとれたのがよかった。
雑誌を自分の表現みたいにはしたくなくて、
どうなっていくかわからない事の方が面白いから
そこを長尾くんがどう展開して広げてくれるか、楽しんだ。

デザイン作るのもいわゆる写真雑誌とか雑誌のかっこういいフォーマットがなんとなくある気がして、
なんかそういうところよりも、もっとわかんないところっていうか、
どうしたら自分達のもともとあるアイディアが一番伝わるかを考えてた。

一冊目をこういう形でできてよかった。
色んなことをつめこむよりも、
小さい事をいっこ、一冊でひとつのことをできればと作ったから。

デザインのレイアウトも最初つくりはじめた時からすごい変わってる。
長尾くんも、いろいろと細かい本に対するこだわりがあって、
表紙の背の近くの折り返しの線が最初からはいっている本っていいよね、とか、
そういう細かなちょっとしたところ。

表紙とか、中の紙とか、「この紙いいよね」とかそういう話ばかりしてた。
微妙な手触りの話とか。

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最初は、表紙にも写真をつかっていたんだけど、
なんか違うなと。今回の写真のセレクトが単調というか、同じ物がつづくから、
最終的には写真なしで、さあどうしようと。

真新しさということよりも、長く残った時にどういう風に見えて行くか、
を考えて表紙も考えると…
表紙の文字は長尾くんが装丁に合わせて作ってくれたもの。
一番最初に作ってきたときなんて、「6つ考えました」っていって、
2、3個見たとこで、どこが違うの?ってなるくらいな微妙な差で。(笑)
間違い探しみたい。長尾くんからすると全然違う。
おかげで自分もだいぶわかるようになってきたけど。

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本の中身も、池田さんの踊り自体も、反復、繰り返しの中に微妙な差異が見えてきたり、
いわゆるダンスの一瞬の絶頂の写真は使いたくなくて、ただ立ってるとか、
歩いてるだけとか、バランスとっているものを使いたかったから。

いわゆるサービスショットじゃないけど、そういうのは少ない。
ダンスが好きな人が見て喜ぶような本でもないなとは思ってる。

立ってるだけなんだけど、何かの動き出しの手前のようでもあって、
動いてきた後の間でもあって、その状態が面白いなと思ってて。

それが池田さんが作ってる中の写真で、作品ができる前の状態で、
でもまったくゼロの状態でもないっていうのが面白いんじゃないか。

そういうのに興味があるのは、自分の個人的な、前から作品作っている時もあったもので。
自分の作品と言うわけではなく、そういうことにフォーカスしているものを
見せれたら良いなと。

000491380003ユトレヒトにある本で最近買ったのは?ときいて「LIZARD TELEPATHY FOX TELEPATHY / 辺口芳典」 と
”100 Chairs in 100 Days and its 100 Ways by Martino Gamper”がでてきた。

―― 本屋さんで働いていることが、雑誌作りに影響したことは?

本屋さんに置いたらどんな風に見れるだろうって想像しやすかった。
売るものにするから、ファッション誌の隣でもスケボーの本の隣でも
どのジャンルでもないけど、そこにあっても違和感がないように。

自分達が決めるよりも、見た人がどこに置くのかが興味ある。

写真が好きな人のためにつくったわけでも、ダンスが好きな人のためにつくったわけでもないし、
もっと中学生くらいの人が見て、「なんかいいな」って思ってくれたらいいなと。
自分がそれくらいのときに見て面白かった雑誌とか結構、記憶に残っているから。

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―― その時見てたのは?
relax。
当時、部屋が隣だった姉が購読していて、こっそり忍びこんでは読んでた。
ちょっとずつ自分の部屋に持っていって、最終的に全号自分のものにしたという…(笑)

―― ああ、わかります。本を整理する時に、周りにまっさきに雑誌を削ればって言われるけど、雑誌こそ捨てられない。すごい好きで買ってきたものだから、どうしてもそこは。

うん。親とかにも昔から「捨てろ」って言われてた。
Curtainの段ボールもこんなに来たし、最近はもうあきらめたみたいだけど。(笑)

relaxとか、好きなものと同じ事はしたくないなと思っいて。
絶対に影響は受けてるんだけど。

普通に雑誌作るとは違うベクトルかもしれない。

共感するものを紹介したり、好きな人を紹介したり、
そういう場を皆で共有したいっていう人は多くて、
それもいいけど、そういうのと自分はやりたいのは違うかなと。

毎号、前の号を裏切って違う所にいけるのが雑誌の良いところかなって。
違うけど、つながっているようなのが。
似てないけど、似てる。血がつながっているくらいの。

自分が根暗なのかわからないけど、それを読んで、俺も読んでますよって、
友達をつくるのための雑誌じゃなくて。
だれかが一人で読んだ時に、
その人に対してどうかっていう所が大事だなと思ってて。
その一人の人にどれだけうまく伝わるかなって。
もった瞬間に、「好きだな」って思う本、
これ買わなきゃいけない、って思ってしまうようなそういう風にできたらいい。

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Curtain について

Curtain は、東京を拠点に発行される写真雑誌です。毎号、特定の被写体を一定期間、写真家、アーティストが撮影した記録を中心に紙面が構成されます。完成されたものではなく、その過程にあるもの、もしくは完成し得ないものを主題として被写体を選定し、現代における距離と境界について考察していきます。写真による表現のための雑誌ではなく、写真による記録の雑誌です。創刊号は、ダンサーの池田扶美代が2012年9月に横浜で行なった創作の様子を、写真家の小池浩央が撮影した写真で構成されています。

25cm×17.8cm 106P
限定500部
年二回不定期に刊行。

WEB : www.curtain.cc

※1 池田扶美代 / Fumiyo Ikeda
1962 年大阪生まれ。1979 年、16 歳で単身ベルギー に渡り、モーリス・ベジャールのムードラ(ブリュッセル)に入学。同校でアンヌ・テレサ・ドゥ・ ケースマイケルと出会い、1983 年共にローザスを 結成。ベルギーの芸術文化のみならず社会にまで 革命を起こし、今なお世界をリードし続けるダン スカンパニーとして知られる。2007年以降は自身の作品も創作。ダンサーとしてのキャリアは 30 年以上、近年はアラン・プラテルやティム・エッチェルスなどヨーロッパの第一線のクリエイターと組み先鋭的な作品を発表。現在はローザスの初期作品のリハーサルディレクターを務めると共に、ツアー中の作品「エレナス・アーリア」、「ドラミング」にローザスのダンサーとして参加している。

※2 小池浩央 / Hirohisa Koike 1979年群馬県生まれ。写真家。現在は日本とエストニアで活動。
http://www.hirohisakoike.com

※3 長尾周平 / Shuhei Nagao グラフィックデザイナー。 http://www.shuheinagao.com

文・写真 チェルシー舞花
ブログ
http://chelsea.jugem.ne.jp/

エトレンヌ
http://www.etrenne.com/model/chelsea.html/