Artist Statement “WOMB 写真展 / 真実とフェイク”


 『WOMB magazine』の成り立ちや活動方針、現在行っている活動についてお聞かせください。

植田
2013年に日本写真芸術専門学校を卒業するタイミングで「働きながらでも作品を発表できる場があった方がいい」とゼミの先生だった写真評論家の鳥原学さんにアドバイスを頂いたことがきっかけでした。zineを制作するために写真家グループのWOMBを結成し、その後同年9月に『WOMB magazine vol.1』を発行しました。
“WOMB”という名前には、「ものが生み出される(育つ)場、そしてまだ誰も知らないものへの入り口」という意味を込めています。WOMBメンバーの作品発表の場が主な目的ですが、WOMB magazineという媒体で挑戦や実験も含めて、やりたいことをやろうと思っています。また、各自の作品ページについてはそれぞれの責任で取り組むことにしています。
8年目となる11号では初めてテーマを先に決めて作品制作したり、テーマに沿った企画をしました。今は最新号の展示や販売と並行して、新メンバーが入ったので次の12号や13号についても進めています。

 今回の展示は写真誌『WOMB magazine』最新号に掲載された作品の展示となっていますが、誌上に掲載するだけではなく展示をすることの意義や意図があればお聞かせください。

植田
作品を展示を行う意味は大まかに2つあるかなと思います。
まず展示は3次元で作品を見せたい形で見せられる場です。誌面はよくも悪くもメンバー全員の作品のバランスを見てサイズや紙などを決めるので、必ずしも一人一人の作品にベストな状態ではないこともあります。
展示では作家自身が出したい写真の大きさや紙、額装方法など自由にできます。
今回の展示も3人とも全く異なる見せ方をしているのでそこも見所かなと思います。(11号の作品ページは3つの作品が全部違う紙を使ったりとできる限り作家の意図を表現しました。)
また、何より展示をすることでお客さまや色々な人と直接出会えることは大きいです。たまたま入ったお店や展示会場で展示をしていてWOMBを知ってくださった方は少なくないです。誰かと出会えるチャンスがあれば出して、それを地道に続けることが大切だと思っています。おかげさまでバックナンバーの在庫は残りわずかなものばかりとなっています。

 今回テーマに「真実とフェイク」を設定されていらっしゃいますが、その理由やきっかけがあればお聞かせください。

植田
毎回次号をどうするかは全員で話し合って決めて行くのですが、11号はまずテーマを設けて作ってみようということから始まりました。
それが2019年で、世間ではトランプ大統領のフェイクニュースやSNSでのデマなどが話題になったりと、「フェイク」という言葉が気になっていました。
また、写真は日本語では「真実を写す」という意味がありますが、デジタル化やPhotoshopが進化した現状を鑑みて、今写真の真実あるいはフェイクとは何なのだろうかと議論になり、テーマが決まっていきました。
真実を伝えようとする報道写真はどういう歴史だったのか、尊敬する写真家は写真の「真実とフェイク」にどう向き合っているのかなど、これまでにない企画が盛りだくさんの号となりました。

 それぞれの作品の発想のもととなった経験、あるいは何らかの作品からの影響はありましたか?

カリーナ
今回の私の作品「RECOLLECTION」は、振り返ってみれば、ソフィ・カルさんの「限局性激痛」と、横溝静さんの「Stranger」という作品から大きく影響を受けていると思いました。また、約9年前から現在にわたって患っているうつ病がこの作品の元となったと言っていいと思います。(制作中は意識していませんでした。)他人を知ることで自分を知りたかったのだと思います。

植田
「Re」を制作するきっかけになったのは、忘れ物を売っているお店があるというのをテレビか何かで知ってお店に行ったことです。お店では商品名はなく値段だけついていて、何かわからないものがあったのでお店に方に聞いたら、お店の方もわからないと。元が忘れ物だから、わからないものが多々あるそうです。陳列された名前のない、よくわからないものを見つめて、これは何なのだろうって想像を巡らせたことが大きな経験でした。
そこから、お店で出会ったものを想像しながら見るようになりました。

 同じ写真誌で活動するなかで、ほかのメンバーの方から影響を受けることはありますか?

カリーナ
良い意味で常に影響を受けています。メンバーは三者三様で、スタイルにばらつきがある分、客観的目線で相手の長所をお互いに見つけやすいので、的確なアドバイスをしあえるし、違いを見ていてとても勉強になります。

植田:
もちろんあります。掲載する作品を事前に見せ合う場を何回か設けているので、その時にお互いに制作途中の作品の相談をしたり話し合ったりします。客観的な意見も聞けたりとありがたいです。また、メンバーとは面白かった展示や本など色々な話しもするので、それだけでも刺激になりますし、メンバーの作品をみると自分も頑張ろうって単純にモチベーションも上がります。

 同人誌で活動していてよかったと思う点はありますか?

カリーナ
私は新メンバーなので、WOMBとしてはまだ1回しか作品を発表していないですが、作品の制作にしても、マガジンの発行にしても、一人で作業を続けることには限界があると思っています。なので、メンバーと協力しあいながら、一人では達成できないことに挑戦できるという経験と、それによって新しい出会いが生まれ、視野や世界が広がっていったという経験は何事にも代え難いと思いました。私をメンバーとして迎え入れてくれた二人にはとても感謝しています。

植田
たくさんあるのですが、発表する場が常にあったことやWOMBによって様々なご縁ができて本当にありがたいなと思います。今回の展示もですが、先月開催した京都写真美術館さんでの展示はWOMB vol.11を見てくださったことがきっかけでした。
また、初めてお会いする人が名刺交換した時にWOMBを知っていてくださったり、見ていてくださる人がいてくれることは作品を制作する励みになります。

 影響を受けた本、おすすめの本、○○な時に読み返す本など、なにかあなたの1冊を教えてください。

カリーナ
遠藤周作「深い河」

植田
何で写真をやっているのかと聞かれたときに、池澤夏樹さんの「スティル・ライフ」を思い出しながら答えることがあります。安部公房さんの「箱男」を読んでからは、いつかダンボールにピンホールカメラを仕込みつつ箱女をやってみたいなぁと思います。また、赤瀬川源平さんの「超芸術トマソン」はスナップ写真を撮る時に頭をよぎったりします。
写真集はありすぎて書ききれないですが、最近は自分が写真集を刊行することもあり、cristina de middelさんやvasantha yogananthanさんの写真集を読み返してます。どれも考え尽くされていて飽きないです。また、奈良原一高さんや須田一政さんの写真はあると見入ってしまいます。

 今後の活動予定があればお聞かせください。

カリーナ
個人では、本来だったら今開催されているはずがコロナの緊急事態宣言により開催が来春に延期された「つくばアートサイクル」に参加します。

植田
WOMBとしては10月24日、30日にT3 PHOTO FESTIVAL TOKYO
https://t3photo.tokyo)に参加します。
また、個人としては個展を10月12日から31日に恵比寿のKoma galleryで開催します。
「海へ」というWOMB vol.10までに掲載してきた作品を展示し、展示に合わせて初の写真集を刊行予定です。こちらもぜひよろしくお願いします。


 WOMB 写真展 / 真実とフェイク
会期: 2021年9月8日(水)〜9月26日(日) 14日・21日は火曜のため店定休日です
会場: OLD/NEW SELECTBOOKSHOP 百年

展示告知ページ: http://www.100hyakunen.com/news/exhibition/202109163270


WOMBは2013年より写真誌『WOMB magazine』を発行している写真家グループです。
今年の4月に発行した最新11号では「真実とフェイク」というテーマを設定し、制作しました。
本展示では11号に掲載した作品を展示いたします。
また展示期間中、百年にてWOMB最新号とバックナンバー、作家の写真集も展示・販売いたします。

“WOMB” という名前には、ものが生み出される(育つ)場、そしてまだ誰も知らないものへの入り口という意味を込めています。写真という媒体を通して世界を捉え提示していきます。
現在は植田真紗美・川崎璃乃・Kalina Leonardの3人で活動しています。

HP: https://www.wombphoto.com/
Instagram: @wombmagazine